高分子創発機能科学研究室
群馬大学工学研究科応用化学・生物化学専攻

Bio-base... Bio-inspired.. NMR/MRI

生物の動作を模倣したデバイス

        現代のInformation Technology(IT)技術は「最高速」・「高精度」を追求している。 一方、生体システムは一見すると低速で曖昧な処理しかできない。 しかし、生体システムは状況を把握し、危険を回避し、うまく生き伸びている。 現存する最高速の計算機を用いたとしても小動物の機能を完全にシミュレートすることはできないでいる。 このような状況は、 生体システムが従来の人工機械とは全く異なる原理や機構によって動いているという作業仮説を想起させる。

ヒトの脳を考えてみる。 従来のニューラルネットワークは時にカオス状態を形成するが、脳の機能を決定論的な立場から模倣するものである。 ニューラルネットワークの最大の問題点はまさに決定論的な性質に由来するものであり、 それは結果として生体システムに備わっている様々な特徴(例えば環境変化への柔軟な対応や頑強性)が欠如している。 脳の機能を模倣するにはどのような原理・原則が必要だろうか?

環境変化への適応性に関する原理的側面にその答えが隠れているだろう。 そのような原理の一つとして、「確率過程」がある。 コウロギ、アメリカザリガニ、ヘラチョウザメといった様々な生物の感覚ニューロンにおいて、 確率共振(stochastic resonance:SR)現象が使われている。 これらの動物は雑音環境下での微弱信号の検出にSR現象を利用していることが知られている。 最近の研究ではヒトの脳においてもSR現象が観測されている。 しかし、SR現象そのものには、システムにとって最適なアトラクター (環境変化によって撹乱されるまでシステムが留まる準平衡状態)へ確率的に遷移する仕組みがない。

柔軟なシステムでは、 幾つかのアトラクターが予め用意されている必要がある。 そこで、我々はSR現象を示す単純閾値系をネットワーク化することにより複数のアトラクターを作り、 環境情報をベースにアトラクター間を自律的に遷移する動作をするデバイスの創製を目指している。

Posted on: 04.01.2009.