高分子創発機能科学研究室
群馬大学工学研究科応用化学・生物化学専攻

Bio-base... Bio-inspired.. NMR/MRI

分子ダイナミクスを調べるNMR

        磁性粉体などの微小な永久磁石を試料に近接した位置に配置し, その粉体がつくり出す強力な磁場勾配は単位メートルあたり数万から数10 万テスラ程度にも達し, パルス的に磁場勾配を印加する方法や反ヘルムホルツ超伝導コイルによって達成可能な勾配強度(パルス法:単位メートルあたり20 テスラ程度, 反ヘルムホルツ超伝導コイル:単位メートルあたり200 テスラ程度) と比較して2〜4 桁も大きい. この超強力な磁場勾配を利用してナノメートルスケールの高分子物質特にバイオベースポリマーの静的構造および動的構造の画像化を目標として研究を行なう.

フィルム材料の深さ方向に組成勾配を有する高分子組成傾斜材料はフィルムの表裏で異なる機能を有しつつお互いの欠点を補う機能性高分子複合材料として期待されている. 例えば, 裏面に生体適合高分子材料を露出させ, 表面に耐機械的衝撃の高い高分子材料を配することによりフィルムの機械的強度を向上させた人工皮膚などである. しかし, その材料開発法をはじめ, その評価法には問題が多くの課題が残されている.例えば, 高分子傾斜フィルムの厚さ方向の組成傾斜を調べる場合には, マイクロトーム等の切断機械により厚さ方向の薄膜切片を切り出し, その切片を用いて様々な分析が行なわれる. その切断の際に印加される圧力や切断そのもののため, しばしば観測が困難になったり, 材料の状態変化を引き起こしてしまう場合が多く, 非破壊で組成傾斜構造を分析できる方法の開発が望まれている.

磁性粉体の強力磁場勾配を用いた画像化法は高分子傾斜構造の画像化のみならず, 固体材料の表面分析や内部分析にそのまま応用可能となると考えられる. さらに, 分子中に存在する局所的な磁場勾配に匹敵する磁場勾配を試料に印加できるのでサブナノメートルオーダーの周期構造すなわち結晶の周期性に関する情報も得られると期待される. すなわち, 「磁気共鳴結晶学」という新しい研究分野が広がると期待される.また, 化学結合の距離スケールで強力な磁場勾配下が印加されるため, そのような状況下での磁気共鳴実験により磁場と化学結合に関する新たな現象が見つかるかもしれない.しかし, ナノイメージング法に対する磁気共鳴の寄与は現時点では小さい. 磁気共鳴法は物質内部のイメージングが可能であり, さらに分子ダイナミクスに関する情報も取得できるという特徴を有しているものの, 現在のところその画像分解能はサブミリメートルに留まっており, ナノスケールでのイメージングは実現していないからである.

磁気共鳴を用いたイメージング法と拡散測定法は, "空間に依存した磁場", すなわち, 磁場勾配を用いることにより実現される. 最近では, より高い分解能での画像の取得やより遅い物質拡散を測定しようとするいくつかの試みがなされつつある. 中でも固体中の拡散測定をターゲットとしたパルス磁場勾配(PFG) 法は強い磁場勾配パルスを発生させることにより高解像度の画像の取得や遅い拡散の測定を目指したものであり、注目されている. しかし固体試料を扱う場合には, 系がもつ内部磁場勾配強度が, 印加可能な最大PFG強度に匹敵するあるいは凌ぐ場合が多い. つまり実際に原子が感じる磁場勾配が不明となり画像の分解能低下や拡散測定の困難が生じてしまうことになる.本研究室ではそのような問題を克服するために磁性粉体などの微小永久磁石を用いた動的ナノイメージング法の開発とその高分子材料への応用を目指して研究を行ないたい.

Posted on: 04.01.2009.